デザイナーベビー

中国がリードするデザイナーベビーとは。問題点、日本での実例、法律についてなど。

デザイナーベビーの倫理観とは

デザイナーベビーを倫理的にどうとらえるかというのは国、人、ケースによって異なってくるかもしれません。その前に倫理的というのはどういうことなのか、ということを把握する必要もあるかもしれません。

 

グーグルさんで「倫理とは」と検索すると出てくるのは下記のようなものです。

人間生活の秩序つまり人倫の中で踏み行うべき規範の筋道(の立て方)。

後半のところはちょっと難しいですが、前半はなんとか理解できそうです。人間生活の秩序、ということです。ということは倫理的に問題があるということは、言い方を変えると人間生活の秩序を乱す、と理解できそうです。

 

ではデザイナーベイビーはどんな点で人間生活の秩序を乱すのでしょうか?

そもそもデザイナーベビーは人間と言える?

おそらくこの点を思う人はいるのではないでしょうか。通常のプロセスとは明らかに異なるプロセルを経て生まれてきています。遺伝子の段階で操作をするなんてことは全くもって想定されていなかったことです。

体外受精というものもありますが、あれはあくまで通常のプロセス自体を体外で行うということで、遺伝子自体を操作しているわけではありません。もし今後受精の後のプロセス全てを体外で行うとしても、出産という行為はなくなりますが、ほぼ体外で行っているだけで、遺伝子操作にはならないでしょう。

しかしデザイナーベビーはそうはいきません。要は人間が人間を作り出す神のような存在になってしまっているということです。

人間としての個性がなくなる?

デザイナーベビーで行われることとしては長所を著しく伸ばすということがあります。足を速くするとか、筋力をアップするとか、身長を高くするとかみたいな単純な身体的なものから、ソフト的なもの、例えばIQを高くするといったこともあるでしょう。そうなると様々なことが起こります。例えば陸上競技などでは世界記録が著しく更新されるかもしれません。水泳などでも一緒です。IQが高くなると新たな発明などがどんどん増えるかもしれません。新しい政治的な仕組みだってできるかもしれません。ここら辺をどうとらえるかでしょう。デザインされていない人間と同じ土俵で評価していいものか。世界が良くなるなら良さそうですけど、スポーツの世界では微妙な気もします。

 

もう1つデザイナーベビーで行われることとして、欠点を克服するというものがあります。病気にならない体にするとか、既に受精した時にわかっている身体的な障害などを除くなどです。これもなんだか良さそうな気がしますが、デザイナーベビーがない現状の世界で考えられていることとの整合性を考える必要がありそうです。つまり、障害を持った人達というのをどう考えているかです。

 

最近では障害というのは「個性」という捉えられ方をしています。「欠点」ではなく「個性」ということです。身長が低いとかそういったものと同じということです。そうなるとデザイナーベイビーは「個性」を消されて生まれてくるということになります。「個性」であればいいかもしれませんが、「欠点」を克服して生まれてくると捉えられるかもしれません。そうなると「個性」という考え方と相反して、デザイナーベビーとそうでない人との間に溝が生まれるかもしれません。

社会的な合意は作れるのか

デザイナーベイビーの倫理的な論点を見て行くと、いいこともありそうですが、なんだか社会的な混乱も起こりそうです。一生懸命努力しても結局デザイナーベビーにはかなわない。そんなことが起こると、世の中がなんだか変な方向に行ってしまいそうな気もします。一方で、ものすごい高い能力を持ったデザイナーベビー達が世の中を良い方向にもっていってくれたらそれはなんだかうれしい気もします。

こういった部分をどう考えるのかということについての社会的な合意は作れるのでしょうか。持つ者と持たざる者みたいな対立が発生しないだろうか。デザイナーベビーに関する倫理観が決着するのはまだまだ先のようにも思えます。

デザイナーベイビーのメリットとデメリット

恐らくこういったことを考えること自体が人間の生命というものを何か実験道具のように扱っているという意見もあるかと思います。例えば、あなたが生まれてきたメリットとデメリットって何でしょう?とか、そういった議論が発生したら本人はどう思うか、といった感じですね。

とはいっても人間界全体に関わることなので、そういった観点での議論も必要なのかもしれません。

デザナーベイビーのメリット

ということでメリットから考えてみると、要はデザインされた、自分の好みに合った人間を作り出すことができるということですね。

・病気の遺伝子を排除できる

・ルックスをいいものにできる

・身体能力を高められる

・IQを高められる

何だか2次元の世界について話をしているような気もしてきましたw

デザイナーベイビーのデメリット

ではデメリットの方です。こちらは恐らく倫理的な問題になってくるでしょう。

・親の好みで子供の容姿や能力を選別してもいいのか

・お金を持っている人だけが使うことができるのではないか

・人間界に異質な存在が生まれてしまうのではないか

・最後はやはり倫理的にどういったことを許していいのかどうか

メリットとデメリットどちらをとるのか

恐らく・・・最終的にはどこまでを許すのか、といったところで落ち着くのかもしれません。最初からわかっている重大な病気、その病気を持って生まれてくると、生まれてきた後に非常に多くの苦労やお金がかかることが分かっている場合の操作。そういったデザインはもしかして社会的にも許されるかもしれません。

一方で、著しく能力や容姿を高めるようなことに対しては厳しい目が向けられるかもしれません。例えば身体能力を高めるようなデザインです。DNAをデザインすることで、筋力を高めたり、持久力を高めたり、体のサイズそのものを高めたり。こういったことは国家の目的のためといった大儀のために行われてしまうかもしれません。そしてそれを生まれた本人が知った時には非常にショックを受けるかもしれません。

また、同じような人間を大量生産するといったこともかなり厳しい目を向けられそうです。たとえそれが治療目的のようなものであってもです。生命を操作するということについてはこれからも慎重な議論が求められていくのではないでしょうか。

 

遺伝子編集で痛みをなくすのはありかなしか

きっかけはジョー・キャメロンさんというスコットランド人女性だったそうです。この女性は物理的な痛み(骨折や出血など)だけではなく、感情的な痛み(不安、憂鬱、恐怖)さえも抱かないのだとか。そしてその原因はそれらを司る遺伝子情報が欠けているから。彼女にとってはそれが普通だったのですね。

 

ニューヨークタイムズの記事で彼女のインタビューを見ることができますが、ストレッチングする感覚はあるそうです。しかし、痛みは感じないのだとか。。。

www.nytimes.com

ポジティブなアイデア

要は遺伝子の突然変異が起きているわけなのですが、痛みや不安を感じないということはこれらを感じることで悩んでいる人達、困っている人達を助けることができるかもしれません。

具体的には、鎮痛剤が手放せない人とか。アメリカはオピオイド、鎮痛剤による薬物中毒が酷いと聞きます。あのコロンバイン高事件の生存者もオピオイド依存症になってしまったのだとか。ご冥福をお祈りします。

www.cnn.co.jp

こういった依存症の人達から痛みを取り除いてあげることは期待できるかもしれません。あとはうつ病へのアプローチですね。

ネガティブなアイデア

一方ネガティブなアイデアと言えば、、、やはり軍事目的での使用ですね。痛みを感じない戦士を作ってしまったら・・・

痛みだけではなく、恐怖や不安を感じないのですからね・・・

 

なんだかここまで来るとXファイルの世界のようにも見えます。

遺伝子編集の一般的なリスク

これはやはり影響が見えないこと。何かしらの影響を持つ遺伝子を編集した時に、どのような影響が出てくるかを予想することが難しいということです。

心臓発作のリスク低減のための遺伝子を編集したところ糖尿病のリスクが上がるといったトレードオフがあるなんてことがわかっているそうです。

対処できそうなトレードオフであればいいのですが、遺伝子ですから見たこともない影響を及ぼすかもしれませんよね。そうなった時には既存の薬で対処できるのか。もしできないとしたらさらに遺伝子編集をするみたいなことが必要になってくるのか。

 

そうなると新たな影響も出てくる可能性があるかもしれません。

 

全く影響を与えない形での遺伝子編集ができるようになる日はくるのでしょうか。

 

不妊治療医の精子で200人?!

治療をしていた医者が自分の精子を使って、患者に妊娠をさせて、子供を産ませた可能性があるということです。それも200人。そして裁判所がそれが本当なのかどうかを確かめるためにDNA鑑定命令を出しました。

www.cnn.co.jp

不妊治療も一種のデザイナーベイビーになるのでしょうか。何をもってデザインとするかではありますが。そしてこの例では意図していた精子とは異なる精子が使われてしまいました。どうやって確かめるんでしょうね。やはりDNAの構造を調べることになるんでしょうかね。生命の誕生を操作するというのは難しい問題ですね。

記事にある写真には

「DNA鑑定を命じる裁判所の判断を受け、喜びの表情を浮かべる原告団

という説明がついています。主張が認められたという嬉しさかもしれませんが、その結果によってはこの喜びはどちらに転ぶことになるのでしょうか。

 

日本でデザイナーベイビーは生まれるか

日本でデザイナーベイビーが生まれるかというとかなり難しい気がします。というかどの国でも難しいかもしれません。ただ、今後遺伝子情報の操作についての研究はどんどん進むでしょうから、実質的にはデザイナーベイビーになるというような実例が出てくる可能性はあるかもしれません。

世界的には実例あり?

ただ、世界的には実例があるようなないような情報もあります。

jp.techcrunch.com

この記事では世界初の遺伝子操作ベビー(デザイナーベイビー)が高校を卒業すると言っています。記事は2014年に書かれたものなので、この子達は既に20歳を超えていることになります。

しかし、この事例については先日の香港で開かれたヒトゲノム編集分野の国際会議では触れられていません。これはなぜなのでしょうか。タブーとなっているのかもしれません。

GMOをも嫌う日本人

遺伝子操作、遺伝子編集というのは人間以外であれば既に使われている技術です。最たるものが遺伝子組み換え食品、略してGMOなんて呼ばれます。GMOはGenetically Modified Orgasnismsの略ですう。

日本の食品パッケージの裏側を見ると、特に豆腐などの大豆製品なんかは遺伝子組み換えではない、ということが書かれていることが多いです。これはアメリカなどからの輸入作物を使っている場合、その中に遺伝子組み換えされた大豆が入っていることを嫌う日本人が多いことに対応したものです。

日本人がGMO食品を嫌うのは、その影響がわからないからでしょう。何が起こるかわからない、ということです。さらには、農薬などの影響も心配されます。遺伝子を組み換えることは何を目的としているかというと、農薬によって枯れない、といったことを目的にしていることがあります。これまでの大豆であれば、農薬をまいたら枯れていたのに、遺伝子組み換え大豆であれば農薬をまいても枯れないということです。ということはこの大豆は農薬にまみれている・・・ということなんですね。

これは日本人でなくても嫌うかもしれません。同じようなことを人間に対して行っているというのが今回のデザイナーベイビーです。人間には農薬はまきませんが、農薬の代わりにいろいろな病気があります。HIVであったり糖尿病であったり、ガンであったり心臓疾患であったりです。これを日本人がどのように考えるか。今後日本国内でも議論は進んでいくことになると思われます。

 

中国で誕生した人類史上初のデザイナーベイビー

デザイナーベイビーは以前から概念としては知られていました。遺伝子情報を編集された赤ちゃん、それがデザイナーベイビーです。ただし、それを実際に行った人は公式にはまだいませんでした。ということになっています。もしかして密かにやっている人はいたかもしれません。でも発表などはしていなかったのです。しかし、その歴史が変わったのです。

中国の生物学者賀建奎(フー・ジェンクイ)氏がデザイナーベイビー誕生を発表

世界で、人類史上初めてデザイナーベイビーの誕生を発表したのは中国の生物物理学者で南方科技大学准教授の賀建奎(フー・ジェンクイ)氏。同氏は香港で開かれたヒトゲノム編集分野の国際会議の2日目にデザイナーベイビー誕生を発表しました。

発表に先立って英国のフランシス・クリック研究所の生物学者ロビン・ロヴェル=バッジが会議を主催する米国科学アカデミー(NAS)は、賀氏の研究プロジェクトについては何も知らなかったと強調したとのことですから、このデザイナーベイビー誕生という事件についての扱われ方が伺われます。誰もが注目しつつも誰もが手をつけられなかった分野だったのでしょう。そして賀氏は事前に提出した資料とは異なる資料の説明を始めたのだそうです。ここも何か謎めいたものを感じますね。恐らく事前にデザイナーベイビーに関する資料を提出してしまうと、説明ができなくなる、変に話題が広まってしまうといったことを心配したのかもしれません。

「CRISPR-Cas9」と呼ばれる遺伝子編集技術。これが今回賀氏が遺伝子情報操作に使った技術です。そしてデザイナーベイビー誕生以外にも、着床させた受精卵はまだある、ということが賀氏から明かされました。つまり、やろうと思えば追加でデザイナーベイビーを誕生させることができるということなのです。

賀氏はなんとこの発表資料を公開しています。

デザイナーベイビー誕生の目的

賀氏はどのような目的でデザイナーベイビーを誕生させたのでしょうか。これにはHIVに苦しむ人達を救いたい、という大義名分があったようです。賀氏によると中国で同氏が訪れた村ではHIV感染率が30%にも登ったのだとか。それを見て賀氏はHIV耐性を持つ子を誕生させたいと思ったとのことです。

中国政府の方針

中国で誕生したデザイナーベイビー。ひょっとすると国家プロジェクト?という見方もあるかもしれませんが、どうやら中国政府は関与していないようです。というのも、この発表の後、中国政府は研究の中止を命令しているからです。

賀氏がデザイナーベイビーの誕生を発表した後、様々な人、組織から声明が発表されましたが、どれもかなり否定的なものばかりであり、今回のデザイナーベイビー誕生の衝撃の大きさを物語っているようです。業界としてはまだまだいろいろなことを議論している途中であり、まさかこの段階で誰かがデザイナーベイビーを誕生させるとは思っていなかったのかもしれません。

パンドラの箱は開けられた?

しかし、一度行われたものを元に戻すことは難しいかもしれません。このニュースを知った人は自分もデザイナーベイビーが欲しいと思うかもしれません。SFの世界で語られていた段階と、実際に可能だとわかった段階では意味が大きく異なります。今後世界のどこかでデザイナーベイビーが誕生していくかもしれません。

 

デザイナーベイビーの問題点は3つ

デザイナーベイビー。中国で誕生したというニュースもあり、注目を集めています。そしてその問題点にも。ではこのデザイナーベイビーの問題点には何があるのでしょうか。

技術的問題点

最初の問題点は技術的なものです。既に技術的にデザイナーベイビーを生み出すことは可能と言われています。但し、遺伝子情報の編集というのはまだまだ当然のことながら人間に対してはもちろん生物に対してそこまで多く行われてきたわけではありません。こういった技術的な問題というのは、いくつもの症例が積み重なって、そこで発生した問題を対処していくうちに成功確率を上げていく、というのが通常です。しかしデザイナーベイビーの場合は症例を積み重ねるというのはなかなか難しいかもしれません。もちろん100年単位で見ていけば積み重ねることになるのでしょうけど、対象が人間ですから、失敗が許されないということになるのです。そしてそんな中失敗した場合にどんなことが起こるか誰も予測がつかないというのが怖いところになってきます。

コスト的問題点

これは時間が解決する最たるものかもしれません。どんな医学もそのうちコスト的には下がってくるでしょうし、世界にはびっくりするような富裕層がいるものです。確かに大衆化するにはコスト的な問題点はあるでしょう。ただ、デザイナーベイビーが大衆化するかというと、そういった類のものではないかもしれません。そうなると、今は難しいかもしれませんが、恐らくあと10年もすれば富裕層(といっても億単位をぽんと出せるくらいは最低必要でしょうね)であれば、対応可能なコストには落ちてくるかもしれません。実際に中国でデザイナーベイビーが誕生しているということは、それを払う富裕層がいるということです。

倫理的問題点

最後の倫理的問題点。これが一番難しいデザイナーベイビーの問題点になってくるでしょう。まず最初にあげられるのが宗教的な観点です。中絶についても宗教的には反対がありますので、遺伝子情報を操作するというデザイナーベイビーであればさらなる反対が予想されるでしょう。

さらに優生学の考え方も関係してきます。優生学というのは、優れた人間のみを残すべきだ、といった考え方です。これの何がいけないかというと、優れている人間と優れていない人間を区別してしまうことです。そして優れていない人間は残されるべきでない、という考え方につながってしまうからです。

そして、これは技術的な問題点とも関係しますが、デザイナーベイビーが多くの人によって利用され、そこにもし技術的な欠陥があった場合、望まない子供が生まれてくる、という可能性もあります。その時にどの子供をどう扱うのか、ということも問題になってきます。電化製品なんかと違って、失敗したからといって捨てるわけにはいかないのが命です。ただ、親側としては自分達が持つ”欠陥”を覗くためにデザイナーベイビーを作ったのに、”欠陥”を持ったベイビーが生まれてきてしまうと、その”要件”が満たされていないことになるわけです。そうなった場合誰が責任を負うのか。

ベイビーを要求した親なのか、作った技術者なのか、会社なのか、社会としてはどのように対応していくべきなのか。こういったところが今後整備されていなかくてはならないのかもしれません。